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 侵入者はすぐに視線を祖父へ戻すと、ポケットから一枚の紙きれを取り出して、またニタニタと笑いながら祖父へ突き出した。紙切れを受け取った祖父の顔がみるみる青ざめていくのを楽しむように、侵入者はゆっくりとしゃべっているのがわかった。囁き声はよく聞こえなかったが、いよいよ嫌な予感で女たちは身を寄せ合っていた。 「そんな、そんなばかな!」祖父が叫んだ。侵入者はニタリを最上級にした。 「なんの話なのかよくわからないけれど、お父さんが借金を作ったようなことを言っていたんです。でも、そんなことをするはずないのに!おじいちゃんも、そういって、それに返せるようなお金も、うちにはないし……。そうしたら、なら、外の馬や鶏を売れと言うんです。それは、あたしたちにも聞こえるように叫んでいたの。貧相だが、なぁ、二束三文にはなるだろうって。まったく足りないが、まずはそのぐらいはやってみせろって」 アルフィナが、子どもなりにわかったことを思い出せる限りでそこまで話した時点で、ほとんどの者は半ば興味を失った顔をしていた。あからさまにあくびをした者もある。「つまり、なんだ、お嬢さん」雑貨屋のトントールが、少女を怖がらせないように精一杯気遣わし気に語りかけた。 「畑や動物の代わりに、姉さんが連れて行かれてしまったんだな?」 アルフィナが驚いたように顔を上げた。それから、また涙を零しながら頷いた。 「あたしたちだって抵抗したんです。おじいちゃんは昔…」 「あぁ!うるせぇ!やめろ、やめろ!」     
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