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「行きました…。でも、断られてしまったから……!あたしみたいな、子どもの言うこと、信じられないって……」 「ほらな」嘲るような顔を、男は見せた。 「誰も信じやしねぇよ。信じたって動いてなんかくれるもんか。てめぇみたいな……」 コトリ。そのとき微かだが確かな音がした。瞬間、喋りかけで歪んだ男の唇が不意に引き攣って動かなくなった。酔っぱらって、だらしなく赤らんでいた顔が、突然金縛りにでもあったように緊張して震えている。ルルーナとアルフィナはほとんど同時に男の視線を追った。トントールと他の者も、同様に、見た。キッドが、つい先刻、髭面の旅人を撃ち殺した青年が、グラスを置いた音であった。女のように美しく、少年のように澄んだ瞳が、帽子の下から男を見ている。  衆目の中、キッドは黙っておもむろに立ち上がった。コツ。コツ。ゆったりと靴音を響かせて男に歩み寄る。足元の死体を一瞥もしないが、この場にいる者はアルフィナ以外全員、この子どものような背の青年が、この死体を作ったことを知っている。芸術的なまでの早撃ちの技術を持っていることを知っている。     
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