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 カウンターの男はゴクリと唾をのんだ。ほんの六歩、キッドは歩いたに過ぎない。だが僅か六回の靴音は、男の恐怖を増幅させるに十分すぎる効果があったようである。となりに立ったヘーゼル・グリーンの瞳に見下ろされた瞬間、男は何かに蹴飛ばされたように立ち上がった。 「な、なんだよ!」 立ち上がれば無論、男の方がキッドよりも頭一つ分は大きい。自分が見下ろす位置になることで、男がやっと絞り出したことばが、情けなくもそれであった。キッドは少し目を細めてため息を吐いた。男はまだ次のことばが出てこない。キッドは首をまわして、アルフィナの顔を見た。事情はよくわからないなりに店の中の空気を感じ取って黙っていた少女は、少し怯えながらも不思議そうに青年を見返してまばたきしている。キッドはまたすぐ男に向き直ると、 「腕のいい床屋を知っているんだ。紹介しようか」 薄く笑って、そんなことを言った。 「なにを……?」 「汚い口髭と顎髭が絡まっちゃって、うまく喋れないんだろ?」 カッと音がしそうなほど一気に男の顔に血が上る。この青年の、小首を傾げたこの笑顔の、なんと腹立たしく挑発的なことか。     
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