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坊やに坊やと呼ばれる屈辱を、男は理解しきれずに小さく髭を震わせるばかりで突っ立っている。その様子を見て、キッドは無邪気に白い歯を見せた。 「これは没収」 酒を奪われ、反対の手で肩を叩かれて、男は力なく椅子に座り込んだ。そこへ店主がグラスに入ったミルクを出したものだから、どっと笑いが起きた。男は口惜しさと恥ずかしさに「チクショウ!」呟いてはみたが、なんだかすっかり気をそがれ、ミルクを黙って飲み干した。拍手して囃す者がいた。ミルクの甘さが髭に残った。  キッドが、少女を振り返った。 「きみもミルク?それとも、あたたかなティーの方がいいかい?」 アルフィナは目を見開きながら、小さく首を横に振った。不思議そうに首をかしげる青年はいたずら好きの少年のようであったが、とてもカウンターに近づく気にはなれなかった。  少女の目線が泳ぐのを見て、あぁ、と、キッドは肩を竦めた。心優しき農村の娘には、ここは恐ろしい場所であろうことを思い出したのである。キッドには居心地のいい空間も彼女には真夜中に森へ入るように不安であったろうし、気のいい仲間も鬼か何かに見えるであろうし、なんといっても、そういえばそこに死体があるのだ。 「まぁ、嫌と言うなら無理強いはできないけれどね」     
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