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独り言のように呟きながら、キッドはカウンターの椅子に座りなおす。それもわざわざ死体の一番近くに、である。店主がそれと察して、すぐに新しいグラスを用意して酒を注いだ。癖なのか、首を傾けた微笑で店主に挨拶を返すと、キッドは少女を振り返りもせずに続けた。 「残念だ。勇気ある少女だと言ったけれど取り消すよ。覚悟のない、ただの女の子だった」 「覚悟ならあります!」 アルフィナは反射的に叫んだ。叫んでしまってから、肩を跳ねせて、あからさまに不安げに眉を寄せた。だが、後ずさりそうになる足を叱咤して、目をぎゅっと閉じた。ここで引き下がってどうするのだ。幼い小さな体にありったけの覚悟を詰め込んで、ここへ来たのである。  キッドが今度は首だけまわして、肩越しにアルフィナを見た。  アルフィナが目を開いた。スカートの裾を両手で握りしめて、わずかに呼吸を荒げながら、大きな瞳でキッドを見返した。  店中が黙ってふたりを見つめている。退屈な身の上話を聞かされているという消極的な空気は薄まっていた。キッドが言った「話の大事」が何かを知りたがる者。キッド程の腕利きが少女に興味を示したことが気になる者。アルフィナと名乗る少女に同情する者。単純に純な少女が珍しくて見ている者。特にすることがないのでぼんやり見ている者。理由はなんであれ、態度がどうであれ、店中の注目が集まっている。     
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