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 アルフィナは、妙に親し気に喋るガンマンを観察した。この青年もアルフィナから見れば大人の男だが他の客たちと比べるとずいぶん若い。自分を怒鳴りつけた男も、その近くの男も、恐ろしくてよく見てはいないけれど床に倒れているのも、みんな髭を生やしていて、首も腕ももっとずっと太くて、声もガラガラと低くてうるさい。身震いがするほどにおそろしい。それに比べて、この人はずいぶん清潔感があって爽やかだと思う。まず髭を生やしていない。もみあげもサッパリしていて、威圧感を与える男くささはどこにも見つけられない。体つきも他の男どもよりずっと華奢で、顔は小さく顎も細い。整った目鼻立ちに、やや薄い唇は、これは意図せずそう見える形なのかもしれないが、少し微笑んで見えた。ハスキーなアルトで語り掛ける口調は朗らかで、少しも恐ろしさは感じない、はずなのだが……。 (さっきのは、なんだったのだろう?) 怒鳴り出したカウンターの男を黙らせた、あの時の空気。あの時の場の緊張。あれは一体なんであったのか? (よく、見えなかったけれど……) あの時、カウンターで怒鳴っていた男は怯えた様子であった。周囲の人々も、この若者をというよりはカウンターの男を案じているように見えたし、この若者は、自分が思うよりもずっと危険な男なのではあるまいか?  青年の腰にはガンベルトが巻かれている。銃は右と左に一丁ずつ。アルフィナに銃の良し悪しはわからないが、銃を所持しているのだから銃を撃つのだろうと漠然と思った。何を撃つための銃なのか。人を撃つための銃かしら。  しばらく黙っていたキッドは、無論、アルフィナの視線が銃に行ったことに気がついている。無邪気な少女である。そんなにじっと他人の銃を見つめては、無礼者だと撃ち殺されても文句は言えない。ここはそういう場所なのだが、彼女の世界はそうではあるまい。「レディ」掠れたアルトが優しく呼びかけて、アルフィナは、はっと目線を相手の顔に戻した。 「ひとつ、きみの話を聞く前に話しておこう。この足元の死体。これを撃ったのはおれだよ」 「えっ?」     
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