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キッドは左手で銃を一丁抜くと、器用に指で回転させて気を惹いてから銃口をアルフィナに向けた。
「きみに必要な力だろう」
アルフィナは真剣な面持ちで銃を見つめた。拳銃というものを少女はこの時はじめてまじめに見たが、思っていたよりずっと小さかった。その事実が、少女に何かを決意させたように人々には見えた。
一呼吸を置いて、アルフィナは一歩踏み出した。そのまま淀みなくキッドのすぐ後ろまで歩み寄り、改めてキッドの銃と、足元の死体とを見比べた。床に流れた血は、今やすっかり黒く変色して床にしみている。よく見ると、床も壁も、そんなシミがあちこちにあった。
「人を撃つだけじゃ、足りないの」
ブラウンの瞳が悲し気にキッドを見つめた。その答えを予期していたキッドは、相変わらず微笑みながら、銃をホルスターに戻した。
「魔法もなんにもかかっていない、ただの拳銃だけど、おれなら魔獣だって撃てる。きみの言う"猿みたいの"は、そういう類のものなんだろう?」
アルフィナは小さく、だがしっかりと頷いた。トントールが息をのんだ。店内にさざなみのように声が流れた。ただのチンピラではない、魔獣が絡む話となると、哀れな少女のお涙頂戴話とは誰も言えないのだ。魔獣が人に連れられて人を襲うなど聞いたことのない話である。
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