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「言いました!すぐに"例の物"をって」 「ふぅん……」 金ではない。何者かわからないが、魔物を使役するなどという技術を持った相手の目的が貧乏百姓のはした金とは思えなかった。あるいはそれを売れば破格の褒美があるのだろう。父親の借金などというのは話のきっかけに過ぎず、真の目的は別にあるというわけだ。 (魔獣使役のからくりは単純に首輪にあるのだろうけれど。そんな魔法を使えるやつが狙う物…) 口ぶりから察するに、アルフィナは詳細は何も知らされていないに違いない。やはり祖父が怪しいが、恐らくこの少女は祖父が何かを隠しているとは思ってもみないだろう。  キッドにとって、この頼みを引き受けて得があるかはまるでわからない。魔獣相手となれば危険も大いに増すであろう。だが、何気ない調子でキッドは笑った。 「姉さんは、まだ大丈夫」 最低限、命だけだが……。一心に姉を案じているアルフィナのブラウンの瞳の純粋さを見れば、これ以上悲しませるような真似はできかねた。  キッドが視線をあげると、ルルーナが心配顔でアルフィナとキッドとを見比べていた。この娼婦は、この町で生まれ育ったにも関わらず優しく穏やかな女だった。キッドは金褐色の髪を手櫛でいじって少し考えた。     
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