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アルフィナはルルーナの声にも答えられなかった。キッドが悪人かどうかなど、もうどうだってよかった。悪人どころか、もっと厄介なものにちがいない。先刻、キッドと同じ扉から運び出された死体が脳裏をよぎった。カウンターで怒鳴っていた男はまだ隅っこでミルクの入ったグラスを眺めている。あの青年は、これまでにきっと何人も撃っているのだと、この時点でアルフィナは納得していた。  だが同時に、彼ほど愛すべき人もいないように思われた。ヘーゼル・グリーンの瞳はひどく澄んでいて、それがどういうわけか、ひどく悲しく思い出される。彼は何か切ないものを抱えているのではないかしら。何故かそんな気がする……。  キッドが出て行った扉の向こう、姉を助けるための道が、何か重大なことにつながっていくような、奇妙な予感で少女は暫し動けずにいた。
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