水瓶座・1

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トントールには禿げた頭部しか隠すものはない。ハンチング帽を被りニコニコと人の好さそうな笑顔を浮かべて、となりのアルフィナを見下ろして答えた。親戚の子どもを愛するような笑顔はアルフィナを安心させたが、本当にまるっきり善人の顔である。なんといっても正直者で、朝から口ぶりも表情も足取りさえもソワソワと落ち着きなく、アルフィナから見ても浮かれているのが明らかだった。 (何がそんなに嬉しいのだろ) 責めるでなく、アルフィナは単純にそう思った。そういえば昨日、酒場の連中も水瓶座と聞いてひどく喜んでいたのを今更ながら疑問に思った時、トントールの方から話しかけてきた。 「水瓶座っていうのは、まぁ、簡単に言えば万屋でね。世界のあちこちをまわってる行商人グループだ。俺は雑貨屋をやってるんだが、店に出す商品の仕入れに便利でね」 「なんでもあるんですか」 「あるとも」 トントールは気持ち少女の顔を覗き込むように腰を曲げてニンマリ首肯した。それがまたひどくはしゃいだ様子なのでアルフィナの緊張もほんのりと和らいだのだが、もちろん当のトントールはそんなことには気が付かない。歩きながら嬉しそうに話を続けた。 「すごいぞ。見たらお嬢さんも腰を抜かすよ。本当になんでもある!……いや、無い物もたくさんあるかな。本当に日用品みたいのはないかな。でも、水瓶座が運んでくる品物は他では見れないような面白いものばっかりだ!」 「たとえば、どんな?」 「たとえば?たとえば……そうだ、これは三年前に水瓶座で買ったんだ」     
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