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トントールが得意げにジャケットの右袖をまくってアルフィナに突き出した。驚いてちょっと躓きそうになりながらアルフィナが見ると、太い手首に銀の腕輪をしている。一見、なんの装飾もない幅5ミリ程のシンプルなブレスレットでアルフィナが首を傾げた。それを見たトントールは、また、ニンマリ。
「ちょっと離れて……いくぞ!」
トントールが「むんっ」と何か気合を入れたと思った瞬間、ボンッ!音を立ててブレスレットが火を噴いた。
「きゃっ!」
「おっと!ごめんな、熱かった?」
「ううん。大丈夫です。でも、驚いた」
ほんの一瞬で火は消えた。ブレスレットに焦げもなければ、トントールの肌もちょっと濃い体毛も燃えた様子はない。だが、見間違いではなく、確かに瞬間、まっすぐ上に二十センチほどの炎が噴き出ていた。そんな仕掛けがあるようなスイッチや穴も見当たらない。魔法である。
「火炎魔法?おじさん、魔法が使えるんですか?」
「ちがう、ちがう。例えばこういう物を売っているんだ、水瓶座は。これはちょっとした護身用の火を噴く腕輪。もっと強力な魔法道具もいっぱいあるし、この間は妖精の粉を売ってたぞ」
アルフィナがブラウンの瞳をパチクリと瞬かせた。クルトペリオの町に来てから少女は驚いてばかりである。妖精の粉だなんて想像もできない未知の物どころか、アルフィナはこれまで魔法道具にもほとんど触れたことがなかった。
「すごい。それなら姉さんの助けになるような道具もきっと……」
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