198人が本棚に入れています
本棚に追加
彼らは知っていたのである。この、一見するとまだ酒の味も知らない子どものような青年が、凄腕のガンマンだということを、知っていた。この青年は少し前からこの土地に住んでいる。今度のようにプライドばかり先行した旅人がこの青年にゲームを持ち掛け、返り討ちにあうこともしばしばであった。この青年は、住人たちにとっては親しい「金の生る木」なのである。そう考えると、一番の卑怯者は客の住人たちの方かもしれない。
無論、そんなことを口髭の旅人は知らない。こんな子どもが魔法もイカサマもなしに俺に勝てるわけがないのだ。なのに、何を落ち着き払っているのだという顔をしている。平気な顔で黙したままの青年に、汚れた髭を震わせた。自分を見つめるヘーゼル・グリーンの瞳が、無機質な宝石のように見える。こんな女のような顔をしたチビが、俺をなめやがって!そういう気持ちが、イライラと男のプライドを刺激しているらしかった。
いや、イライラしていると思っているのは男だけかもしれない。この時点では自覚できていなかったが、男は恐怖していた。青年の視線に、つい先刻の早撃ちで砕けたグラスの音が耳によみがえるようである。大仰に喚きたて、不正(と、この男は信じていた)を暴こうとしてはみたが、この小柄な男の早撃ちは確かに恐怖すべきものであった。ゲームでは客や店主にバレないように魔法を使ったのに違いないが、このまま撃ち合いになって相手が本気の魔法を使いでもしたら、あるいは…そんな恐れが、ヘーゼル・グリーンの瞳に反射して渦巻くようであった。
最初のコメントを投稿しよう!