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青年の一挙手一投足が、旅人の恐怖を加速させた。夜の冷たい風が隙間から首筋を撫でたときよりも背筋が震えた。覚えず、右手が銃を引き抜き、店内に銃声が響く。
一瞬後、恐怖の顔のまま、旅人は膝をつき、やがて前のめりに倒れた。その頃には青年は、既に旅人の眉間を撃ちぬいた自分の銃をホルスターに戻していた。あまりの早業に観客は息をのんで黙っている。青年はゆっくりと相手に歩み寄り、薄汚れた右手から銃を奪い取ってカウンターに置いた。
「はい、マスター」
店主は落ち着いた様子で銃を取ると、前後左右から眺め、眉を寄せた。
「これは……」
店主の様子に、他の客も集まってきて、口髭の旅人の銃を眺めるが、異常は見つけられない。
「おい、どうしたんだ。その銃、どっかおかしいのかい」
「そんなのどこにでもあるリボルバーじゃないか」
口々にそんなことを言った。その声をまったく無視して、店主が銃を分解する。青年もカウンターに片肘をついて、ニヤニヤとその様子を眺めていた。
「なんという恥知らずめ!」
店主は呆れ顔で死体を一瞥し、唾でも吐き掛けそうな表情で呟いた。不思議そうにしている客に向かって、手元の銃の撃鉄付近を示す。
「魔法を使わん者にはわかりづらいだろうが、ここに魔力補助がかかっている。この銃と弾が本来持つ性能よりも速く、威力ある射撃にするためだ」
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