サクヤ

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サクヤは足早に中庭を抜けると、正面の門はくぐらず馬小屋を通り過ぎた。 馬小屋の裏手にはいつも山のように糞が積んであり臭いがきついためあまり誰も近寄らない。 そこを少し行くと、急斜面の山に突き当たる。 サクヤは脇目もふらずにその山へ入っていった。 所々削れた山の斜面に剥き出しになった木の幹に手をかけ足をかけ、慣れた動作でぐんぐん登っていく。 一番上まで行くと、真っ直ぐに立ち並ぶ木々と山草が広がる。 前も後ろもどこを見ても似たような景色だったが、サクヤは少しも迷う事なく目的地まで歩いた。 重なり合う木の葉の隙間から春の暖かい陽射しが入り、足元で咲く小さな山草花達が喜んでいるようだ。 似たような景色をいくつも通り、また少し登ると目的地に着いた。 山桜の木が一本ぽつんとあるだけであとは他の場所と大して景色は変わらない。 でもここは、サクヤのお気にいりの場所だった。 幼い頃から、何か気分が落ち込んだりした時や一人になりたい時は必ずここに来てぼんやりしていた。 桜はようやく小さな蕾を所々に付けていた。 「お前、もう少しで咲きそうだな」 まるで、昔から知っている奴に話しかけるように自然に言っていた。 ━━━パキッ 突然、後ろで小枝が折れる音がして振り向いた。 「……サクヤ」
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