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「……ハヤトか」
サクヤは現れた人物に特に驚きもしなかった。
ハヤトはサクヤの幼馴染だ。
母親たちが同じ時期に身籠り、同じ時期に出産し、同じ屋敷内でまるで双子のように育てられてきた。
小さな頃は何をするのも一緒だったが、最近はサクヤも父の政策を手伝ったりしていて少し距離を置いていた。
大人になり国を治める氏の息子と、それに仕える家臣の息子という現実が身分の違いをハッキリと色濃くしていたからだ。
幼い頃はこの場所で二人で日が暮れるまで遊んだ。
女顔だとサクヤをからかう連中に二人で喧嘩を売りに行ったこともあった。
どちらかが叱られると、必ずここに来て隠れて過ごした。
ハヤトとの幼い頃の思い出をぽつぽつと思い出して、サクヤはまた気持ちが落ち込んだ。
「村、出てくんだってな」
ハヤトの言葉にサクヤはピクリとした。
やっぱり、皆知っているのだ。
小さな国の小さな村では噂なんてあっという間に拡がるんだろう。
サクヤは山桜の不規則な幹を撫でながら答えた。
「……仕方ないんだ…俺が行かなきゃ…」
本当はイヤだと言いたかった。
父に対して言ったように、なぜ自分なんだと吐き出してしまいたかった。
なのに、なぜか強がりを言ってしまっていた。
「なぁ…都ってさ、どんな場所なんだろうな…噂じゃ貴族はみんな金の屋敷に住んでるらしいぜ」
とりとめのない事を言って力なく笑って見せた。
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