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すると、突然目の前が暗くなりサクヤの身体を何かが包んでいた。
それがハヤトだと認識するまでに暫く時間がかかった。
「……ハヤト…?」
一緒に野山を駆け回り転んで揉みくちゃになる事はあっても、抱きしめられたのは初めてだった。
細くか弱い体格のサクヤに対し、背丈もあり筋肉もしっかりついていて男らしい体格のハヤト。
厚い胸板に押し付けられたサクヤは硬直した。
「………行くな…どこにも、行くな…」
ドクンドクンと響く鼓動と一緒に小さく、でもハッキリとハヤトの言葉が聞こえた。
そして、サクヤの背中に回していた腕を更に自分へと引き寄せた。
ハヤトの切なげな息がサクヤの髪を揺らす。
こんなにも至近距離でハヤトの吐息や体温を感じたのは初めてだった。
途端に恥ずかしくなり、慌ててみじろぐがハヤトの腕は思ってた以上に逞しく微塵も動かない。
サクヤは焦り、抵抗に力を込めた。
━冗談だろ?
心臓がバクバクと早鐘を打ち胸がざわつく。
ハヤトは抵抗するサクヤの手首を掴んだ。
その力の強さに、サクヤはハヤトが冗談でこんな事をしているんじゃないと感じた。
背中を山桜に押し付けられ、サクヤは呻いた。
「……っ、痛い!」
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