サクヤ

2/12
前へ
/68ページ
次へ
「父上、なぜですか!!」 厳しい寒さが少しずつ和らぎはじめた春先の朝、屋敷の中庭にサクヤの声が響いた。 使用人達が何事かと足を止め、こちらを見つめていたがサクヤは気にしなかった。 髭を蓄えた恰幅のよい中年の男の名はホオデリ。 この国を治める氏の一人であり、屋敷の主だ。 ホオデリは何事にも真摯に取り組み、民を思う政策でこれまでいくつもの難題を解決していた。 その人柄の良さや態度で、普段は威厳や尊厳はもちろん仁徳も得ていた。 しかしこのところのホオデリは、ある問題に頭を悩ませていた。 その問題が…サクヤだったのだ。 やれやれと溜め息を吐き、ホオデリはサクヤの呼び止めに振り向いた。 「父上、なぜですか。なぜ俺なのですか!」 サクヤはもう一度、父に詰め寄った。
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

108人が本棚に入れています
本棚に追加