108人が本棚に入れています
本棚に追加
「父上、なぜですか!!」
厳しい寒さが少しずつ和らぎはじめた春先の朝、屋敷の中庭にサクヤの声が響いた。
使用人達が何事かと足を止め、こちらを見つめていたがサクヤは気にしなかった。
髭を蓄えた恰幅のよい中年の男の名はホオデリ。
この国を治める氏の一人であり、屋敷の主だ。
ホオデリは何事にも真摯に取り組み、民を思う政策でこれまでいくつもの難題を解決していた。
その人柄の良さや態度で、普段は威厳や尊厳はもちろん仁徳も得ていた。
しかしこのところのホオデリは、ある問題に頭を悩ませていた。
その問題が…サクヤだったのだ。
やれやれと溜め息を吐き、ホオデリはサクヤの呼び止めに振り向いた。
「父上、なぜですか。なぜ俺なのですか!」
サクヤはもう一度、父に詰め寄った。
最初のコメントを投稿しよう!