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「サクヤ、これはもう決まった事なのだ」
父の変わらない返答に、サクヤは小さな肩を震わせた。
「このような事…許されるはずがありません…俺は…俺は…」
サクヤは口唇を噛みしめると俯いた。
「俺は男です!!」
今更こんな当たり前の事をなぜこんなにも全力で主張しなければならないのか、サクヤ自身も馬鹿らしかったが今はその事が一番大事だった。
もちろん、父のホオデリもそんな事は17年も前から知っていた。
今まで男として産まれ、男として育ち、そしてこれからも男として生きていく…はずだった。
そんな当たり前のような事が当たり前でなくなってしまうのが、サクヤの身に起こりそうになっているのだった。
昔から、身体が華奢なのはわかっていた。
食欲は人並み以上あるくせに、身長は伸びず筋肉もつかない。
加えて肌も透けるように白く、どんなに夏の焼けるような日射しを浴びてもその肌が小麦色になる事はなかった。
一番気にしていたのは長すぎる睫毛に縁取られた男にしては大きすぎる瞳と、血が滲んだような濡れた紅い口唇だった。
その艶めいた容姿のせいで、今までいくどもからかわれてきたサクヤ。
だけど、持ち前の精神と父親譲りの男気でからかう奴らにはとことんぶつかっていった。
そんなサクヤの見た目と内面の差に驚く者も少なくなかった。
そして、いつの間にかサクヤの見た目をからかってきた奴らは皆サクヤの良い仲間になっていたのだった。
そんな仲間たちとも離れなければならなくなる…
この、生まれ育った土地を遠く離れていかなければならなくなる…
そして…何よりも男としての自分を捨てなければならなくなる事が一番嫌だった。
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