さくや

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結月の長い前髪がサラリと落ちて俺の頬に触れた。 ゆっくり、確かめるように結月の顔が近づいてくる。 斜めに顔を傾けると薄く開かれた口唇が遠慮がちに俺の口唇に重なった。 柔らかいそこから結月の温度が伝わって、身体がじんと痺れる。 触れた時と同じように口唇がゆっくり離れると、また確かめるように重なった。 心臓がうるさいくらいドキドキと鼓動を刻んでいる。 柔らかい口唇は名残惜しげに離れると、甘い吐息を漏らしながら俺の耳元に寄せられた。 剥き出しの首すじが、漆黒の髪が、俺の鼻を擽る。 その首すじに思わず顔を擦りつけたくなった。 「………さくや…」 けれど、呼ばれた名前にはっと我に返る。 違う…… 違う…… 結月が呼んだのは俺じゃない……… 「……さくや」 もう一度結月の低い声が耳に響く。 その声は、俺の身体にゆっくりゆっくり広がると心の一番奥に到達した。 隠しておく事はできない。 こんなにも愛しくサクヤの名前を呼ぶ男を前にして、嘘をつく事はできないと思った。 俺はゆっくり目を閉じると意を決意した。
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