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「俺、サクヤじゃない」
ゆっくりそう言うと掴まれた腕に僅かに力が込められたのを感じた。
「俺はサクヤじゃない」
もう一度言うと、更に力が込められた。
「………っ嘘だ」
甘く低い声が苦虫を噛み潰したような声に変わる。
ズキンと胸の奥が締め付けられた。
「嘘じゃない、」
「嘘だろ!!」
痛いくらい肩を掴まれて結月が俺を見た。
声色には怒りが込められてるのに、その表情は悲しみそのものだった。
「………ごめん………」
期待させて、
「……ごめん……」
そんな顔させて、
「………ごめん……」
サクヤじゃなくて……
俺は掴まれた肩の痛みより胸の痛みにひたすら耐えて謝る事しかできなかった。
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