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「豊原くんと何かあった?」
朱琉は俺の機嫌など気にする素振りもみせず、まだ笑っている。
「お前には関係ない」
第三者に対して冷たいなとは思いつつも、今の俺には誰かを気遣う余裕なんて微塵もない。
「関係ない?ほんとに?」
朱琉は意味深に微笑んだ。
まるで今の俺の姿を楽しんでいるかのような表情に、怒りが沸々とわいてくる。
「お前には関係ないだろ。気分悪いんだ…頼むから絡むな」
俺はため息を吐くと鞄を掴んだ。これ以上朱琉と話すと怒りを制御できなくなりそうで。
「さくやが彼に振り向いてもらえないのは何回目かな?」
朱琉を避け出口に向かおうとすると、再び楽しげな口調が響いた。
思わず足を止めた俺に、朱琉はさらに続ける。
「おかわいそうな姉上…昔からハヤトの事が好きで好きでたまらなかったんだよね。だけど、その醜い姿のせいでハヤトとは結ばれなかった。誰からも愛されず…一人寂しく死んでいった姉上。生まれ変わって『さくや』なんて名を持っていても所詮偽物。わかる?さくや。さくやがね、豊原結月と結ばれる事は金輪際絶対にないんだよ?」
最初に入ってきた時と変わらない朱琉の横顔を俺は茫然として見つめていた。
何を言っているんだ…
姉…醜い…一人…ハヤト…結ばれない…
頭の中に単語だけがぐるぐると回っている。
嘲るような口調で話していた朱琉がゆっくりと横を向き俺を見た。
「僕がサクヤだよ。そしてさくやはイワヒメ、僕の姉だ」
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