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イワヒメ…
『記憶』の中でその存在を見た事はなかった。
物心ついたときには父のホオデリから姉のいる離に近づく事を禁じられていたからだ。
姉は幼い頃から体が弱く、人の息に触れるだけで体調が悪くなるのだと聞かされていた。
人の僅かな息にさえ触れる事ができないなんて、よほど悪い病なんだろうと思い言いつけを守って離には近づかなかった。
サクヤだった俺の『記憶』に姉の存在がなかったのは……
俺がイワヒメだったから…
俺がイワヒメ自身だったから…?
じゃあ、あのサクヤだった頃の『記憶』は…
野山を駆け回り、馬に乗り、ハヤトや仲間と日が沈むまで遊んだ『記憶』を思い出す。
だけどすぐにさっきの柔らかな胸の膨らみ、華奢な肩や腕、高くか細い声の女の『記憶』がサクヤの『記憶』を塗り替えた。
あの身体の感触は確かに自分のものだった。
今、目の前にいる本物のサクヤを前にしてサクヤだった『記憶』なんてもう何の意味も持たない。
「フフ…そうがっかりしなくても大丈夫だよ?前世より幾分ましじゃない、その顔」
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