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不思議と涙は出なかった。
朱琉はまだ何か言って俺を嘲笑っていたけれどもう頭には何も入ってこなかった。
ただ、真実だけが頭の中をいっぱいにしている。
これは決して変えられない。どんなに否定しても抗いても、変えられない事だ。
ハヤトがイワヒメを好きにならなかったように、結月は俺を好きにはならないだろう。
前世でも今世でも……
「おい、お前何年何組だ?」
突然肩を叩かれ、俺はようやく金縛りから解除された。いつの間にか、朱琉はいなくなり目の前には白衣を着た男が俺を覗きこんでいる。
消毒液の臭いが何だか懐かしく感じてホッとした。
あれ、でも保険医ってこんな先生だったっけ…?
ぼんやりとそんな事を思っていると、男の顔が急に青ざめた。
「お、お前…ちょ、大丈夫か…?何かあったのか?」
「何が…ですか」
「何がって…お前…泣いてんじゃん」
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