第1章 エイト

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3. 「手ぶらじゃ帰れない」 夕暮れ時の空が紅く染まった頃、エイトは突然こんなことを言い出した。 「はあ?!?」 「手ぶらで帰れるわけがない。何ポイント引かれるだろうか……」 「ポイント?」 「なあ、美羽ちゃん。近々死ぬ予定ない?」 いよいよ失礼なやつだ。 ……どころの騒ぎじゃない。 「ポイントってなによ」 「えー、その話聞きたいの?」 「話してくれないわけ?」 「だって、少しめんどくさいんだ」 「いいじゃない。あんたの遂行すべき任務である目的のあたしは生きていて仕事できないんだから。それに、ここにいたって暇なだけよ。……暇なのはあたし含めてだけれども」 長い入院生活を送っていると冬の寒さも、感じることを許されない。世間はクリスマスの準備に勤しんでいるであろうくらいの日にちである。ようするに、今こうしてあたしの病室に、非日常が現れたことにあたしは心を踊らせずにはいられないのだ。 「美羽ちゃん、天使って何で出来てるか知ってる?」 「なにそれ、木とか?」 「……それ、本気で言ってるの? 僕が木製に見えるってこと?」 むろん冗談である。 「天使はね、水子霊なんだ」 「?」 「つまり、生まれてく
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