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「少し、長くなるぞ」
そう言いながら差し出されたコーヒーは、この間と同じように香ばしい匂いを放っていた。
「お前の父さんと母さん、ブラックのトキオリとホワイトの彩(あや)が出会ったのは、下層階から地下水路、そこからイヴの楽園に出る為の空き家だ」
カウンターで立つクラッドは話しながら赤い瞳を細くする。その表情はどこか優しげで、きっと懐かしく思っているのだろう。
「その時は俺も一緒にいて、お前らみたいに仕事をするためにイヴの楽園に来たんだが、」
『なぁトキオリ、』
『あぁ、分かってる』
地下水路から上がり、開いた扉の向こうは誰もいない空き家の筈だ。けれど、その日は何者かの気配がした。
気配からそれはホワイトだと分かるが、なぜここにいるのか。政府の情報を信じていない訳ではないけれど、政府もホワイトだ、時にしくじることもあるだろう。
トキオリとクラッドは警戒した面持ちで空き家へと踏み込み、気配のする方へと進めば、そこはリビングで。
『・・・・』
テーブルの前にある椅子に座るのは一人の女。後姿だが、髪が長いこと、そして体形からそう考えられる。
二人は顔を見合わせて頷き合い『おい』とトキオリが声を掛ければ、女はバッと振り返り『勝手に入ってごめんなさい!』と急に立ち上がり頭を下げた。
『あのっ、私、こっちに引っ越して来たばかりで、迷子になってしまって、でもっ、夜になってしまったので、近くの家に上がらせてもらおうと思ったら、ここ空き家だったんで、勝手に入ってしまいました!』
ごめんなさい、と再び謝る女に、トキオリとクラッドは再び顔を見合わせ、数回まばたきをする。どうやらこちらに敵意があるわけではないらしい。
『おい、お前』
『あっ、申し遅れました、私は彩と申します』
言いながら恐る恐る顔を上げる女―彩にクラッドは無意識に腰に下げていた拳銃に触れれば、トキオリがそれを手で制した。
『トキオリ?』
『彩、キミは俺たちの瞳が見えるかい?』
ここは電気もついていない暗闇だ。このまま何も見えなければ、二階のベッドルームに泊まっていい、と言った後に、この家から出て行って仕事をこなせばいい。そう思っていたのだが、こういう時に限って、窓から月明かりが部屋を照らした。
『あ、いま光が・・・えっと、赤、色、』
そこでハッとしたような顔をし、口元を両手で隠す彩。
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