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カチャリと鍵が開いた音がした。
「開いたよ~いや~鍵穴自体古くなってて時間かかっちゃったよ」
ふぅっと左手で額の汗を拭うと、ガラガラと少し立て付けの悪くなったドアを開けた。
「さてと!少々お待ちを~」
ひょんっと立ち上がると、懐中電灯を床に照らしながら稔は図書室に入っていった。
暗くて不気味な場所に躊躇もせずに入れる稔の図太さに綾音は感心さえ覚えていた。稔は墓地の近くに住んでいるためか、暗闇を怖がることを知らない。今日だって綾音は康太が一緒に夜道を歩いてくれたが、稔の家は2人と正反対であるため学校まで1人できたことになる。とても小学生とは思えない行動力と精神力である。
「おい」
康太が不愛想に綾音を呼びかける。
「お前どうするつもり」
「どうするつもりって…」
「嫌ならお前1人で帰れよ」
「そんなのできるわけないじゃん!」
綾音の目は今にも崩壊しそうなほど涙で溢れていた。今でさえ夜の学校のなんとも言えない静けさに恐怖で押しつぶされそうなのに、1人で帰路にたどり着くなど不可能である。不本意だが康太がいなければ綾音は帰れないのである。
「だったらわがまま言うんじゃねーよブスッ」
「そ…そんな言い方しなくても」
康太は容赦なく言葉の凶器を振り回す。
綾音は幾度もなく康太に虐げられてきた。綾音が意に反することを言えばすぐに康太は心無い言葉を並べる。言った本人は綾音がどうなろうが知ったことではない。むしろ自分のせいで泣く綾音に苛立ちすら覚えるほどである。
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