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朝日から身を隠すように、俺は神社がある山へ入る。しばらく歩くと、川のせせらぎが鼓膜を撫でた。
苔むした岩石の合間を、清水が勢いよく流れている。水飛沫で川は白く色づいているように見えた。幅はそこまでじゃないがな。深さは……落っこちたことがないから、正確なところはわからない。深いところは深そうだ。以前は簡易的な橋が架かっていたんだが、先日の豪雨で押し流されてしまった。
まあ、こんな山奥、やって来る人もそうそういない。俺みたいな物好きじゃなきゃ、流されたことにすら気づかないだろう。なくたって、かまわない代物だ。
「この木でいいか」
俺は川のそばに生えていた樹木に、そっと手を置く。太さは、俺の胴体くらいか。周囲を見回し、誰もいないことを確認してから、徐々に力をこめていった。めりめりと軋む音がする。地面が盛り上がって、足元がぐらつく。根が大地にしがみつき、悲鳴を上げている。意外と音がでかいな。早く倒れてくれ、誰か来る前に地面とおさらばしてくないと困る。くそ、足場が悪いな。
俺は、助走をつけて木の幹に飛びつく。テレビの見様見真似でドロップキックを炸裂させた。べきょりと凄まじく嫌な音が山に響き渡る。俺の脚の骨が折れても同じような音が鳴りそうだ。
轟音を立てて倒れ伏した幹の先端は、対岸まで届いた。
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