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「うわっ」
勢いそのまま空中でくるりと一回転した俺は、うまい具合に両足で着地できないものかと足を伸ばし、ずるりと滑る。片方のサンダルが吹っ飛び、顔面から地面にダイブした。
「ぐえっ」
誰だ今蛙を踏み潰したやつは。痛い。冷たい泥の味が口内に広がる。痛い。
まだ雨上がりでぬかるんでいるから、橋を作り直すのはもっと後にしようって、俺、約束したよな? 父さんも父さんだ。いくら常西村に宿がないからって、普通見ず知らずの他人を家に泊めるか? 昨晩は一睡もできなかったぞ。早く洗濯と風呂をしに――って屋敷にはあいつがいるんだった。居場所がない。
「うう……」
顔の泥を拭って立ち上がる。サンダルはどこに消えた? あ、川のふちにカラフルなものが。あんなところまで転がったのか。危ない危ない、川に落っこちる前に拾わなくては。よろよろ近づき、手を伸ばす。
俺にとって、この山は庭みたいなものだけど、だからって、いつもの癖でサンダルを履いてきたのは反省しないとな。
「――怪力だが、反射神経は鈍いのか」
指に引っかけたサンダルが滑り落ちる。水しぶきの中へ消えていった。ああ!?
振り返る。
男がいた。
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