プロローグ:もう少し先のお話

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私立 涼月(りょうげつ)高等学校。 愛知県西部に位置するこの学校は偏差値も部活動もそこそこ。 そして何より特筆すべき点は、男子校だという事。 この学校に通う俺は日曜だと言うのに時間とにらみ合いながら、猛ダッシュで校門を駆け抜ける。 職員玄関から校内に入り、ひたすら階段を上っていく。 「はぁっ、はぁっ……ギリセーフ……」 「弾遅い!もう基礎練始まるよ」 「寝坊か寝坊か?あはは、珍しいな」 「すいません、すぐ準備します!」 俺は慌てて楽器庫に向かい棚からケースを取り出す。 カチリとロックを外し開くと、光を浴びて楽器が金色の輝きを放つ。 俺は丁寧にトランペットを出し、ケースを棚に戻して音楽室に行く。 そして一通り音出しを終えると、黒板の前でじっと俺たちを見つめていた顧問が口を開いた。 「さて、皆の準備が整ったようなので基礎練を始めます。コンクールはもう目の前です、一つも練習を無駄にすることのないように!」 顧問の言葉にはい、と男声百パーセントの返事が響く。 念のためもう一度言っておくけど、ここは男子校だ。 思い返してみれば、こんな暑苦しい吹奏楽部になんて入るつもりはなかった。 けど、今の俺には後悔の一かけらも無い。 呼吸練 を終えると、顧問がメトロノームに合わせて拍を取る。 そして俺たちは、力強くそれぞれの楽器に息を吹き込んだ――。
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