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 予想外なところに連れてこられ、礼一は、目の前の四階建ての建物を気の抜けた表情で見上げた。 「礼」  名前を呼ばれる。明久はもう入口の前に立っていて、礼一は敷地内に入ったところで知らず立ち止まっていたことに気がつく。少し混乱したまま明久についていく。  中に入ると、カフェのような洒落た空間が広がっていて驚いた。打ちっぱなしのコンクリートに大きな窓がはまった、よくある公共図書館の内装が、まさかこんな風だとは予想だにしなかった。ロビーに設けられた掲示板に、リニューアルのお知らせと題した紙が貼り出されており、どうやら最近になって内装を一新したようだ。 「来たことあるか?」  館内を連れ立って歩いていた明久が、礼一を振り返って聞いてくる。 「いや、はじめてだよ」  礼一がいつも利用しているのは大学の付属図書館だ。大学固有の貴重な資料と気分転換を兼ねて通っているが、それも高校を卒業してから。気になる読み物は買うことが多かったし、勉強もひとりで黙々するたちだったから、他の図書館にはいったことがなかった。  礼一が答えると、「ふうん」とだけいい、前を向いた。     
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