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明久はもうこちらを見向きもせず、窓の方を眺めている。とりあえず、急かされているのではないとわかったので、食べることに集中した。
「出るか」
ややあって完食し、お茶を飲み干す頃を見計らって声がかかる。明久はいつのまにか平然とした様子に戻っていた。
「待たせてごめん。出よう」
会計を済ませ店を出る。腕時計を見ると、一時を回っていた。
「これからしたいことある?」
礼一は困惑した。
呼び出された時点で行き先が決まっていると思っていたし、それ以前に、これからのことを考えると気が重くなるばかりの礼一にとって、明久と一緒にしたいことなんて思いつくわけがない。
「こっち」
返事をためらっていると、声がかかった。
明久はついてくるように促すと、歩きだした。予想外の言葉に一瞬反応が遅れてしまい、はじかれたように後を追う。
「行くあてはあるの?」
「ああ」
追いついてから問いかけると、返事が返ってきた。行くところの候補はあって、その上で礼一にも聞いてきたのだとわかった。
商店街を抜け交通量の多い道路を道なりに歩いていると、やがてひらけた場所に出た。目的地はここらしく、明久は敷地に入っていく。
「ここ……」
ほどなくして到着したところは、礼一にとって馴染み深い場所だった。
(図書館……?)
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