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図書区画は、各カテゴリごとに読書スペースを設けていて、その全てがカテゴリコンセプトに沿ってレイアウトをしているらしい。娯楽雑誌を取り扱っている付近は、ベンチソファを等間隔に配置したシンプルな空間で、児童書付近の読書スペースは床からテーブル、椅子に至るまで木材を利用した温かみが溢れる空間になっている。一階は比較的低年齢層に向けた区画になっているようで、子連れや小中学生くらいの年頃の子が多く見受けられた。
明久が一階を素通りし、二階に向かおうとするので、礼一も後を追う。
二階フロアの大半はビジネスや時事関連の書物が中心に置かれているようで、三十代以上の利用者が多かった。重厚な色のラグが敷かれ、やわらかな色の照明に満ちた空間で、カフェのようだと思った。実際にカフェエリアも併設されおり、コーヒーブレイクしながら読書をすることも可能なようだ。
明久は近くにあった本棚から本を抜き取る。表題を見て、礼一は目を丸めた。専門書だ。
明久は、内容を確認するように表と裏を交互に見てから、吟味したそれを小脇に挟んだ。
「それ……」
「ん?」
「持ってどうするの?」
「どうするって、読むけど」
それがさも当然であるかのように答えると、近くのカフェテーブルに腰をおろして、何事もなかったかのようにページを捲りはじめた。
間近で起こった信じられない光景に、理解が追いつかない。
「本当に読むの?」
「ああ、礼も何か持ってくれば?」
「いや、そういうことじゃなくてーー」
その時、隣から咳払いが聞こえた。振り向くと、近くの席にいた男がうるさそうにこちらを見ていた。礼一は口をつぐんで、軽く頭をさげた。
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