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読みはじめは散漫としていた思考も、文字を追い始めるとしだいに落ち着いていった。それどころか、周りの変化に気がつかないくらいには没頭していたようだった。
何時だろう、と腕時計を確認すると、十七時をさしていて、図書館にきてから軽く三時間は経過していることを知って焦った。
「ごめん、明久」
明久を慌てて振り向くと、明久は俯いていた。
待たされて怒ったのだろうか?
一瞬どきりとしたが、なんだか様子が変だ。ーー先ほどから動かないのだ。
「明久……?」
俯いている顔を、恐る恐る覗き込んでみると、その瞼は閉じられていた。
(ね、寝てる……?)
怒ったのではなかったのか、と安堵すると同時にわずかに拍子抜けした。
本は膝の上に置いて読んでいたのだろう、序盤で開かれたままになっていて、けっこう前から寝ていたんだと思った。
小さいうめいき声が漏れた。閉じられていた目がゆっくり開く。
「悪い、寝てた。……終わったか?」
「あ、うん……。こっちこそ待たせてごめん。つい没頭しちゃって……」
「いや」
明久は開きっぱなしだった本を閉じると、表紙をじっと見つめた。心なしか、苦々しい表情になっている気する。
「いつもこんなの読んでたんだな」
「専門書のこと?」
「ああ。試しに読んでみたけど、小難しくて頭が痛い」
礼一は、ぽかんとしてしまった。
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