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礼一は幼心に両親を尊敬していたし、自分もそのようになりたいと思ったものだが、明久は違うのだろうか。
アルファの両親。裕福な家庭。充実した教育が受けられる学校。客観的にみて、恵まれた境遇だと思う。礼一から見た明久は、それらを全て無駄にしてるようにみえた。そもそも自分が置かれた環境など、特に意識していないかもしれない。
(ーーいや、考えるのはよそう)
考え過ぎだと言い聞かす。
礼一があれこれ考えても、明久にその気がなければ意味がない。
いまはまだ遊びに夢中でも、もっと年を重ねたら変わるかもしれない。
ーー自分と明久は違う。自分があぐねいても意味がない。
そう割り切らなければ、わずかな苛立ちを含んだわだかまりは、いつまでも自分の中からなくならないだろう。
「そう。もしわからなくて困ってたら、持ってきてごらん」
いくら考えても満足する答えが得られない考え事を頭から無理やり追い出して、微笑み返す。
「うん」
明久は苦手な話題が終わってほっとしたのか、安心したようにはにかんだ。
ふとしたときに、こうした大人びた表情を見せるようになった。
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