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 馬鹿げた考えだ。礼一は頭に浮かんだ疑念を押し出すように疑ぐるのをやめる。 「礼兄、なんか……いいにおいがする」  くだらない記憶たどっている間に、明久が礼一の方に身を寄せていた。 「匂い?」  いい匂い、ということは汗臭いというわけではないのだろう。まだ四月がはじまったばかりで、気温も汗をかくほど高くはない。 「うん、なんだろ?」  肩口に鼻先を近づけて、すんすんと空気を吸う。匂いの元を辿っているようだった。しかしいくら嗅いでもわからないようで、明久は小さな唇を尖らせしきりに首をひねる。 「気になる?」  なにかつけた覚えはない。柔軟剤が変わったのだろうか。しかしそれなら明久も同じ匂いになるはずだ。  あまりにも嗅がれるので、夕飯より先にシャワーを浴びてこようかと思った。しかし明久が 「んーん、いいにおいだからうれしい。ぼく、このにおい好きだな」  とびきりいいことがあったように、にこにこしながらいうので少し思いとどまる。  やがて明久は座り直して、本を読み始めた。その顔はまだ血気に溢れている。  悪い気にはさせていないようだし、ひとまずこのままでいいかと思い直ると、礼一も雑誌に視線を戻した。     
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