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図書館から住まいとしている施設までは徒歩十五分圏内だ。ここは都が運営する公立図書館ではなく、近隣の大学が運営している図書館で、十八歳以上に限られるものの利用手続きを行えば一般人も利用できる。図書館は歴史を感じられる石造りの二階建てで、最新の蔵書から古書まで幅広く取り揃えているのはもちろんのこと、大学固有の貴重な資料などもあるため、調べ物をするときや気分転換に最適だった。また館内は人がまばらで、落ち着いた雰囲気が礼一は気に入っていた。
ポケットにいれた手がようやく温まってきた頃、同じくポケットに入れておいたスマートフォンが鳴った。
取り出してディスプレイを見ると、母からだった。
「母さん? どうしたの?」
『やっと繋がったわ! 今日何回か掛けたんだけど、電波が入らないところにいますって……。朝からずっとよ? 何かあったんじゃないかと思って心配したわ』
出際に電源を入れたが、着信履歴まで確認していなかった。
母は相変わらず大げさだ。電話越しにその様子が目に浮かぶ。
「ごめん。図書館にいたから電源落としたままだった」
『まぁ、今日も図書館でお勉強していたの? 熱中できるものがあるのは良いことだと思うのよ。でもママンはね、一年遅れで入ったからって、そんなに根をつめなくてもいいと思うのだけど……』
「好きでやっているから。それに受験のことはもう気にしてないよ」
今から二年前、礼一ははじめてのヒートを発症した。それも運悪く、二次試験の日だった。
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