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 数時間しか共にしていないが、成長した明久は寡黙であるのに雄々しい性格のようだった。ときおり荒んだ部分が見え隠れするものの、物事を客観的に捉える冷静さを備えている。そして見た目を裏切らず、意志をはっきり主張する。それだけに話し合いは難航するだろうと覚悟をしていたので、いささか拍子抜けした。  まだ説得のせの字もしていないというのに。気が変わったのだろうか。  とにかく話がまとまったのでほっと胸をなでおろした。そのとき、 「でも礼って呼ぶのは譲らない」  と付け足してきた。 「……わかった。ただし家ではよしてほしい」  どうしても呑んで欲しい条件は同意を取れたし、寮住まいは変わらないとのことだったので、そう呼ばれることもないだろう。それにわざわざ付け足して言ってくるくらい拘られると、妥協するしかない気がした。  念のため条件をつけると、明久は一瞬顔をしかめたが、けれど否定の言葉は続かず食事に手をつけ始めた。  湯気がたって美味しそうな匂いをさせていた食事は、もうすっかり冷めていた。けれど今日はいろいろありすぎて温めなおす気力さえなかった。黙々と食べ物を平らげていく明久に続いて、礼一も箸をすすめた。
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