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 その夜はなかなか寝付けず、ようやく眠れたのは明け方近くだった。  次に目を覚ました時、すでに明久の姿はなかった。  空になった明久の部屋を見て、礼一は息をついた。合意は得れたものの、なんだか気分はすっきりしなかった。  インターホンが鳴った。モニターを確認すると宅急便だった。施設から手配した荷物が届いたのだ。  受け取り、部屋で開封すると、ダンボールの底から抑制剤が出てきた。  やはりここに紛れ込んでいた。なぜこんなところに入れてしまったんだと、自責の念に今さら駆られても、鬱々とした気分になるだけだ。  今月のヒートは、明久に幾度も吐精にしてもらったことにより、沈静化した。  薬が手元にない状態で、あのままヒートが続いて母が帰ってきていたら……と思うとめまいがしたが、不幸が功を奏し、その心配はなくなった。  年を取り、オメガのフェロモンの効きが鈍くなっているが、用心するに越したことはない。ーーもっとも、つがいを持った今では、いらぬ心配となったわけだが。  昼になると母が帰ってきた。礼一が出迎えると、碧色の瞳を涙ぐませて、いたく喜んでいた。     
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