1)雨の日、雨宿り

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僕の住む円名地区は、わりと地域の祭りが盛んだ。  秋には御輿や屋台も出て、活発に盛り上がっている。  だからどこの神社もそれなりにつながりがあるけれど、この名前の神社は聞いたことがない。  通学路にあるから、名前だけは知っていたけれど……まるで、仲間外れにされているかのようにぽつんと建っていた。  普段は通り過ぎるだけの場所だったけれど、雨の魔力だろうか。  真っ赤に輝く鳥居が、とても魅力的に見えてしまったのだ。  まあ、魅力的に見えたのは「屋根がある場所」という意味合いの方が強いかもしれない。  できるだけ丁寧にカメラを拭いて、動作確認をする。  うん、まあ、大丈夫。  ……たぶん。  早く雨がやまないかなぁ、と考えながら雨粒を眺めていたけれど、飽きてきた。  退屈だ。  退屈はヒトを殺すというけれど、実際その通りなのだろう。 「……ォー……」 「え?」  とりとめなくそんなことを考えていたら、背後から何かの音が聞こえた。  僕は今、賽銭箱の隣にいる。  後ろは本殿だけど、堅く扉は閉ざされていたはずだ。  振り返ってもそれは変わらない。  だけど、時間が経つほどに何かの声はハッキリと耳に届くようになった。  ……どうしよう。  なにか、だれか、いるんだろうか。  不審者なら逃げないといけないし、でも、もしも助けを求める声だったらどうしよう。  見捨てるなんてできない。 「……あのっ!」  思い切って声をかけてみる。 「だ、誰かいるんですか……?」 「………」  僕が声をかけた途端に声はとまった。  扉には南京錠が巻き付いていたから、僕はせめて扉をノックしようと手の甲を向けたところで……。
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