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「やめなさい」
鋭い声が聞こえた。
一つだけある灯籠の陰から、傘を差した男性がコチラを見ている。
年齢は分からないけれど、お兄さんと言って差し支えないと思う。
服装から察するに、どうやら神主のようだった。
「あっ、ご、ごめんなさい。ちょっと雨宿りをさせてもらいたくて……」
「………」
勝手に踏み込んだ非礼を詫びてみても、男性の表情はピクリとも動かない。
曖昧に笑うことしかできない僕は気まずさで死にそうになった。
「え、えっと……」
とにかく、この空気をどうにかしたくて、話題はないけれど口を開く。
でもその瞬間、本殿の扉がバン!と勢いよく開いた。
「えっ!?」
その瞬間、僕の視界は真っ白になる。
「……っう、うわああ!?」
「コラッ! オオカミサマ!!」
おおかみさま?
なんだろう、それは僕の鼻の穴を満たしている獣臭い匂いと関係しているんだろうか。
獣臭いと言うのは失礼かもしれない。
人間の匂いではないということだけは確かだからそんなふうに思ったけれど、実際は取り込んだばかりの布団の匂いがした。
日差しの良い8月に、外に干していた時の匂いだ。
得体の知れない生き物に押し倒されて、大事なカメラが地面に落ちた音も聞こえているのに何故か僕は安心してしまった。
モフモフだ……。
僕は犬が好きだけれど、飼った経験がない。
なぜかずっと、親に反対されている。お世話をしないからダメ、とかそんな理由じゃなく、ただ頑なに却下され続けていた。
その理不尽に腹をたてていたこともあったけれど、今ならわかる。
これは……ヒトをダメにする……。
僕はどうやら、大きな獣?犬?の下敷きになっているみたいだった。
神主さんの焦った声が遠くで聞こえる……。
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