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「おはようございます。気分はどうですか?」
まず視界に飛び込んだのは、神主らしきお兄さん。
「はじめまして。自分はここの神主で丘見遊馬と申します」
「は、はぁ……」
はじめて見た時は傘に隠れて表情が分からなかったけれど、正面から見ると普通にしていても笑ったように見える細い瞳が印象的だった。
長い前髪を真ん中で分けて、後ろ髪は短い。
身体は細身で小柄な印象だ。
神主というよりも、大学生と言われた方が信じるかもしれない。
「災難でしたね、雨に降られて」
だけど、人懐っこく笑う姿に幾分か警戒心が解けた。
「そ、そうなんですよ……いきなり降られてしまって。……あ、カメラ!」
上体を起こして、会話する姿勢に入ったところでいつも外出時に感じている首の重みがなくなっていることに気がついた。
「あの、僕のカメラ知りませんか? 大事なカメラなんです……」
そういえば、獣に襲われた時に落としてしまった記憶がある。
カメラは精密機械だから、仮に壊れていないとしてもレンズ破損のひとつやふたつは覚悟しないといけないかもしれない。
「かめら、とはコレか?」
あわてて立ち上がろうとしたら、眼前にお目当てのカメラが差し出される。
「こっ、コレです! ありがとうございま……!」
懐かしい重みが両手に戻る。
ホッとしたのもつかの間、僕の目の前に飛び込んできたのは真っ白の着物に真っ白の髪、真っ白でふかふかの尻尾に、犬のような耳を頭部から生やしたコスプレ男だった。
「………っ」
「ん? どうした?」
「きっとオオカミさまの姿に面食らっているのでしょう」
「なぜだ!? こうしてヒトの姿に身を変えているというのに!」
「頭ですよ」
「あたま?」
「耳、出てますよ」
「うっ!」
「あと、尻尾も」
固まってしまった僕の目の前で、コスプレ男は指摘される度に該当個所を消していく。今は尻尾も犬耳もなくなって、全く普通の人間に見えるけれど……。
「………」
「………」
「今更、なかったことになんてできませんよねぇ」
丘見さんが固まって見つめ合う僕らに助け船を出してくれたから、素直に頷く。
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