命令書

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「いや、いいんだ。俺の考えとルークの考えは同じではない。巡行中、思い付いたらその都度知らせるように言ってあるので、追加や変更が出るかもしれない。今回の指示は、仮の措置だ。だから10人ずつで構わない」 「はっ、はあ…」 呟いて、ハサムは手帳と墨筆(すみふで)を脇に置き、食事を進めることにした。 「第二に術語だが、目的は、律法部や騎士隊が行う、犯罪者の捕縛技術の向上だ。つまり、律法部や騎士たちに、より利用価値の高い術語を行き渡らせる。だが、一般の者にも自衛が必要だし、危険性の高い術語を開発されても困る。規制はできないが、決まった術語を配布することで、自衛と、術語開発の必要を減らせないかと考えている」 「術語はひとりひとり違うものだ。それを統一しようと言うのか…」 「そうだ。術語教育では、律法部や騎士たちとは別に、一般向けの教育も行う。それこそ学習場で教えるべきなのかもしれないが…やはりどうなるかは判らん」 ハサムはまた箸を置いて、横の手帳に何事か書き付けた。 「それで肝心の管理官たちだが…心当たりがあるか」 「ナイエスに人選を頼んだ。教育省のなかから選んでくれるだろう」 ナイエス・クリステは教育省長官だ。 教育に関わることなので、部下のなかから選んでくれれば、学習場との連携も取りやすくなるだろう。 そう思ったのだが、ナイエスの考えは違ったようで、食事を終え、談話室で話していたユラ-カグナたちにせかせかと近寄ってきて、言った。 「私がどちらも管理するわ!」 ティトは、あんぐり口を開け、それから宥めるように言った。 「いや、君には教育省があるだろう」 「ピートとレットに任せてきた!」 ピート・カノンとレット・ジェンジーはどちらも教育省副長官で、ナイエスの部下だ。 「任せてきたって…もう動く気か…」 「あたりまえ!もう人選始まっているのでしょ!新たに作る部署なら、人は私が選ばなくっちゃ!」 「いや、まだ君に任せるとは…」 ティトは困ってユラ-カグナを見た。 それに気付いて、ナイエスも椅子に座り、ユラ-カグナをまっすぐ見て言った。 「私にさせてください。新たな人物が決まるまで、教育省長官も兼任しますが、ルシェルト様のこの試みには経験者が必要です。私は、適任です」 「君が動くぐらいなら、副長官のふたりでもいいんじゃないかね…」 そう呟くティトを、ナイエスはじろりと睨んだ。
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