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巡行開始
―乗車前―
世界にただひとつの大陸のほぼ中央に位置する、アルシュファイド王国。
東西には峻厳なふたつの連峰がそびえ、この国を他国からの侵略より護っている。
その連峰を絶縁結界によって護っているのが、双王のひとりである祭王ルシェルト・クィン・レグナ…ルークだ。
絶縁結界とは、その内と外を完全に切り離す結界のことをいう。
東西連峰はそれにより、あらゆる破壊から守られている。
それは人を通さないようにとの考えもあったのだが、数ヵ月前、連峰を傷付けなければ、人の通り抜けが可能であることが判った。
そのため、人を通さない壁状結界を建てたのが、四の宮公のひとり、土の宮公ロアセッラ・バハラスティーユ・クル・セスティオ…ロアと、その甥である彩石騎士のひとり、碧巌騎士カィン・ロルト・クル・セスティオ。
そしてこのふたつの結界に必要なのが、彩石(さいしゃく)と呼ばれる石だ。
彩石とは、この大陸に住む誰もがそれぞれの配分で持つ4種の力…土、風、水、火の異能と呼ばれる力を助ける石で、これには、3種類の働きがある。
ひとつは、人の異能を減少させるサイジャク。
もうひとつは、人の異能を増大させるサイゴク。
そしてもうひとつは、力そのものを内包するサイセキ。
結界に必要なのは、このうちのサイセキだ。
今回、このサイセキに問題が見付かったため、結界修築を行うことが決まった。
修築を行うのは、ルークとカィン、そして彩石判定師であるミナ・ハイデルだ。
ミナの役割は、結界に必要な力量をサイセキから取り出させること。
サイセキには、用途別に必要な力量があり、その力量に過不足があると、結界の歪みに繋がる。
この歪みを正そうというのが、今回の修築だ。
「絶対、無理しないでよ!」
そうミナに言うのは、双王のひとり、政王アークシエラ・ローグ・レグナ…アークだ。
ミナは放っておくと無理ばかりして、倒れたことは一度や二度ではない。
そもそも、彼女の本来の仕事は、彩石のなかの良いもの…完全体と、悪いものである不完全体とを見分けることだ。
それを、彼女にしかできないからと、今回の修築に同行させることになってしまった。
彼女にしかできないがゆえに、無理をするのではないかと、危ぶんでいるのに、止められない。
アークは唇を引き結んで、謝る言葉を自らに禁じた。
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