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許してもらおうなんて思わないし、罪悪感を払拭してもらおうなんてとんでもないことだ。
その気持ちを伝えることは、ときに相手の心を和らげもするけれど。
今は、言いたくなかった。
そんな心を知ってか知らずか、ミナはゆったり笑って、はい、と言った。
「お気を付けください」
見送りの1人となるサリ…水の側宮(そばみや)サリ・ハラ・ユヅリが、そうミナに言い、カィンを見る。
水の側宮とは、四の宮公のひとり、サリの実姉の水の宮公カリ・エネ・ユヅリを助ける役職だ。
カィンと恋仲にあるサリは、別れのこのときに何か言いたかったが、思い付かないようだ。
その様子を微笑ましく思って見つめるのは、側宮護衛団のひとり、女騎士リザウェラ・マーライト。
同僚のマゼラスエイド・サーゴイル…スエイドとともに、サリについてきていた。
「ところでユラ-カグナとシィンはどこだい」
王城書庫管理官マエステオ・ローダーゴード…テオがそう言って、アークを見る。
いつもなら、宰相ユラ-カグナ・ローウェンはともかく、彩石騎士のひとり、白剱騎士ルゥシィン・ヴィーレンツァリオ…シィンを伴っているはずだ。
「何かルークとしているみたいで。今朝もちらっとしか見てないわ。そのうち来るでしょう」
ふぅん、と言って、テオは王城の玄関前にいる顔触れを見回した。
彩石騎士のふたり、赤璋騎士アルペジオ・ルーペン…アルと、緑鉉騎士ファイナ・ウォリス・ザカィア・リル・ウェズラは来ている。
もちろん、今回の旅に加わるカィンと、同じく彩石騎士の緑棠騎士スー・ローゼルスタインもいる。
ぐるりと見回して、ミナの後ろに佇む男を見上げた。
「デュッカ、今回も行くのかい」
「当然だ」
四の宮公のひとり、風の宮公デュッセネ・イエヤ…デュッカが、文句あるかとばかりに、目を細めてテオを見た。
だがそれは一瞬で、すぐにミナへと目を戻す。
何か探るような目をしていると見えるのは気のせいだろうか?
テオは、疑問に思って、ミナをじっと見つめてみた。
変わったところは見受けられない。
目の端で、ミナの護衛であるハイデル騎士団の団長、ムティッツィアノ・モートン…ムトが、腕を上げて時計を見た。
つられてテオも時計を見る。もうすぐ出発の8時だ。
「セラム、パリス、乗ってくれ。ほかの者も騎乗してくれ!」
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