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―乗車後―
「遅くなってごめんねっ」
馬車のなかからアークに手を振ってから、座席に落ち着いたルークがそう言ってミナたちを見回した。
「いえ、大丈夫です。何かありました?」
ミナが聞くと、ルークは嬉しそうに、うんっ、と頷いた。
「異能統制についてまたひとつ動かすんだ。きちんとした部署を立ち上げる。その話で遅れたんだ」
「異能統制…」
ミナが呟くと、ルークは身を乗り出した。
「そう!ミナ、言ったでしょ?術語の整備が必要だって。それ、異能の制御から見直すんだ」
「異能の制御から術語の使用まで、ひとつにまとめて、治める、ということですか…」
「うん!これで少し、形ができたんだ!」
ミナはなんといっていいか判らなかった。
また自分の無責任な発言で何か大きなことが始まったらしいと知った。
すみません、と謝るのは間違っている気がするし、よかったですねえ、と言うのも呑気すぎる。
曖昧に笑っていると、ルークが言った。
「そんな顔しないで。ミナは何も悪い事してないよ。僕自身がやるべきだと思うことを、教えてくれたんだ。ありがとうね」
ミナは困って、笑う。
気を使わせるのではなく、もっと気の利く自分でありたかった。
「さてと、僕の荷物どっち?」
「そちらですよ。下です」
カィンに聞いて、ルークは、ちょっとごめんねと言って立ち上がった。
自分が座っている椅子の座面を上げて、なかの荷物を取り出す。
荷物のなかには、禁書庫の資料を複写したサイセキが入っていて、ルークはそのいくつかを取り出し、うち、ひと組を手に持って合わせた。
すると空中に文書が現れる。
ルークは、それを読むようだ。
「それ、何を写してきたんですか?」
カィンが聞き、ルークはそちらを見て、言った。
「術語の本だよ。土の分。異能制御に関する本は見付けられなかったから、術語の本を読んで、何か得られないかと思ったんだ。元々術語は自分の能力を制御するためのものでしょ。もしかして、段階的に自分の異能を制御する言葉があれば、」
「術語自体が制御の方法となる…?」
カィンの言葉に、ルークは、得たり、と笑顔を向ける。
「そう!」
ミナはそれを聞いて、思い付いた。
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