ヤオ・ウィック

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   リューシャは音も無くレガンの前から消え去った。レガンは一気に、体内の不穏分子を吐き出すかのような大きなため息をついた。  フフン。今だ。 「レガン・ビスフォード」  ちなみにこの声は先程までいたリューシャ並のいい女っぽい声だ。フェルナイン・アルカードとは違う声である。当然のことだから知っていると思われるが、一応心の中で注意しておく。うん、素敵なレディボイスになっている。 「何者」  レガンは辺りを見回す。私はまだ茂みから出ていない。ただ、声を発した際に漏れた息が葉にかかり、僅かに音を鳴らしていて、レガンは茂みの方を注意深く見ていた。 「ここよ、ここ」  私は茂みからでる。あっ待って葉っぱ痛い。  いや、今暗くてよかった。月が雲に隠れていてよかった。暗くて恐らくレガンは私の表情など見えていない。今の私の表情は葉に刺された苦痛で歪んでいるに違いない。そんな顔を見られていたらカッコつかないったら。 「女……」  さて、ここからどうするか。単純だ。私は私の楽しみを守るためなら何だってするさ。フフン、それは時に盗人だったり、偽ったり。私は何だってする。何せ、私の楽しみを守るためだから。 「私はヤオ・ウィック」  しかし、まさか勇者一行の前に立ちはだかる以外の、このような形で一つ姿を失うことになるとは思わなかった。全く。ヤレヤレだ。さて、上手くいくかな、私の偽り―――「リューシャの仲間……みたいなものよ」  これは一か八かの賭けである。そう、仮にリューシャが王国のものだとするならば、当然王国に選ばれたこの男に私は仲間ではないということはすぐ分かる。つまりアウト。  だが魔王のものだったり、全く関係ないとしたら? 恐らく仲間なんてほざいたって問題は無いだろう。  後はレガンの反応を見るだけだ。もし駄目ならば、早急にリューシャについて調べなければ。 「リューシャさん……の…」  おっ。 「……大変失礼な事を言ってしまいました」  上手くいったみたいだな。
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