魔人ムウワ

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 さてさて、所は変わり。空は一面紫じみた黒、ゴロゴロと時に雷がなる音がし、その度に空は白く光る。目の前には蝙蝠が出迎えてきそうなボロい門。庭を見るに荒れ果てていることが良くわかる。草は伸び放題。その奥には傾いて、ところどころかけている部分が見えるお城。  魔王城である。  私は今魔王城を目の前にしている。正直怖い。だかしかし、行かねばならぬ。姫の安否を確認し、さっさと城を出ればいいだけだ。  とりあえず私は門を開ける。耳障りな高い音が辺りを響かせた。後方にある暗い森からバサバサと音がした。恐ろしい。これで悲鳴とか聞こえたら尚恐ろしい。……ああよかった、聞こえなかった。……ほんとに聞こえないね、よかった。  律義に私は門を閉めて、伸び放題の草をかき分けながら進んでいくと意外にもすぐ近くに扉は存在していた。扉はそれなりに原型を保っており、ゆっくりとドアノブに手を伸ばす。下に引く。カチリ、と音がしてゆっくり引いてみると扉は呆気なく開いた。  中は静かだ。静かすぎる。え? ここほんとに魔王城? ただの廃墟とかじゃなくって? だがその心配はすぐにしなくてもよくなった。  あちこちの部屋から魔物達がワラワラと現れたのだ。  おっと。ここでもし私がヤオのままだったら戦わなければならないところだった。だがしかし! 今の私は魔人! 『魔』人! 魔同士だ、仲良く出来る、と思う。  私は戦意はないという風に堂々と歩いていく。魔の気を放ちながらゆっくり歩いていく。魔物達は何かを察したのか近寄ろうとはしなかった。  ……あれこれもしかしてすんなり行ける系? なんか、意外と呆気なく終わりそうだな…。  と、思えば。まあやっぱりすんなり行かないよね。  階段を上った先に一つの大きな扉があった。その前に、角を生やした人型の何かが腕を組んで扉にもたれていた。 「何奴、貴様」  むぅ。魔人になったところで余所者扱いされるとは。さてはこいつ、なかなか強いな。 「我は魔人ムウワ」  とりあえず名乗ってみた。「フン、聞いたことのない名だ」でしょうて。 「教えてやろう無名。俺は魔人グラキオスだ」  聞いたことねー。
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