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ミストレアムス・グランディオッソ・セルプルムーレ。
その少女はただひたすらに、永遠に、延々と続く扉と通路の、出ることは無い迷路空間を作り上げるためにいる。それだけの少女。
「寂しくないか?」思わず出てしまう。
「さみしくない」
ミストレアムスは平然と言う。恐らくは、最初からずっと、このような暮らしをしているからだろう。だから寂しいなどとは思わないのだろう。
「そう…か」
ミストレアムスは扉を完全に開けた。その中は、可愛く施されている部屋。
「はいって」
「え?」
ミストレアムスは小さな手で私の腕を引っ張る。あっ今一応魔人で腕って人じゃなくて鱗あるんだけどあっ気にしてないねー怖がってないねーまあいいか。
小さな力に抗おうと思えば抗えるのだが、何故か抗うことをせず私はミストレアムスの部屋に入ることになった。
「たべよ」
ミストレアムスがバスケットを持ってくる。おや、サンドウィッチとか入ってるのかな。と思っていると、中にはフリフリの紙が敷かれているだけで、何も入っていなかった。
「……」
「た、べ、よ!」
「……ハァイ」
と言っても何をどう食べればいいものか。私は手を伸ばすもののやはり食べるものはないと確信をし、伸ばしたまま静止する。しかしミストレアムスの濁りなき瞳が突き刺さり、仕方無しにバスケットの中から何かをすくい取るような仕草をして、それを掴む。そしてぱくりとそれを口に含んだ。「あーおいし」
「へたくそぉ」
ウッ。
「たべるの、へたくそぉ」
「ウゥ」
ミストレアムスはバスケットにそれこそ私と同じように手を入れる。そして同じようにすくい取る。あれっ、私と同じことを?
ところがそこからは私と違った。
なんとミストレアムスの手には、綺麗にデコレーションされたクッキーがあったのだ。
「お? おお…?」
「たべる?」
これって私が手に取ると消えるんじゃ? と思いつつも差し出されたものを無下にするわけにはいかず、手に取る。心配はいらないようで、そのクッキーは消えず、きちんと口に入り、そこから噛み砕いても消えることはなく、きちんと飲み込むことが出来た。「おいしい」
ミストレアムスはにこりと可愛らしく微笑んだ。
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