ヤオ・ウィック

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 諸君。私だ。元フェルナイン・アルカード。  おや、何故元なのか? それはそのまま、元だからだ。  そうだ、私は『フェルナイン・アルカード』から結局姿を変えて追尾することにしたのだ。  今の私は黒髪をふくらはぎまで伸ばしている、めちゃめちゃ長髪な美女になっている。大和撫子というイメージだ、多分違うだろうが。  そんな私の名はフェルナインではない。私は『ヤオ・ウィック』。  長い髪を揺らして私は勇者一行の後を草むらから、物音ひとつたてずに追っていた。気配を完全に消して。  そうだ、一つ言っておくが、私は恐らく人間ではない。姿形も変えれるし、声、体臭も。私は存在そのものを変えられる。骨格、肉付き、性別……全てを別に出来る私は人間ではないのだ。この体質は自分でもなぜあるのかわからない。気がつけばこの体質を使いこなしていた。そんな私は果たして何者なのか、おそらく誰にもわからないだろう。  勇者一行は道中ちょいちょい出てくる魔物をもさもさと倒しながら森道を進んでいく。私はそのもさもさ倒された魔物を少し可哀想に思いながらも特に助けるだとか回復だとかする術は持っておらず、倒すこともなくただ放っておく。  そんなこんなで日が暮れて。  勇者一行は川が真横に通るちょっとした広いスペースで野宿をすることになったので私はその横の触れる葉が痛い茂みの中に身を潜めることにした。
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