第1話・願掛けの豚カツ

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「いらっしゃい」 色褪せたのれんを潜ると、懐かしい店主のおじさんが迎えてくれた。 あの頃より歳をとって、すっかり痩せていたが、面影はある。 「何にしますか?」 おじさんは水をカタンとテーブルに置いて訊ねた。 「豚カツ定食、お願いします」 「はいよ」 そう言うと、キッチンに入って調理を始める。 ジュワーっと言う音が、店内に響く。 暫く待っていると、おじさんは豚カツ定食を運んできた。 カラリと揚がった分厚い豚カツ。 てんこ盛りのご飯。 わかめと豆腐の味噌汁。 当時と同じものだ。 「お待ちどうさま」 「ありがとうございます。いただきます」 そう言って、俺は豚カツを一口食べる。 サクッとパン粉の音がした。 星空レストランで一緒に食べた雄一の顔を思い出す。 頬をパンパンにして食べていた。 ニカッと笑うあの表情。 気付けば、目に涙が溜まっていた。 俺はそれを堪え、豚カツ定食を一気に食べたのだった。
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