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「いらっしゃい」
色褪せたのれんを潜ると、懐かしい店主のおじさんが迎えてくれた。
あの頃より歳をとって、すっかり痩せていたが、面影はある。
「何にしますか?」
おじさんは水をカタンとテーブルに置いて訊ねた。
「豚カツ定食、お願いします」
「はいよ」
そう言うと、キッチンに入って調理を始める。
ジュワーっと言う音が、店内に響く。
暫く待っていると、おじさんは豚カツ定食を運んできた。
カラリと揚がった分厚い豚カツ。
てんこ盛りのご飯。
わかめと豆腐の味噌汁。
当時と同じものだ。
「お待ちどうさま」
「ありがとうございます。いただきます」
そう言って、俺は豚カツを一口食べる。
サクッとパン粉の音がした。
星空レストランで一緒に食べた雄一の顔を思い出す。
頬をパンパンにして食べていた。
ニカッと笑うあの表情。
気付けば、目に涙が溜まっていた。
俺はそれを堪え、豚カツ定食を一気に食べたのだった。
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